「感動して涙が止まらない」
「涙腺崩壊」
「全米が泣いた」
ネット上には感動して泣けるエピソードがたくさんあります。
突然ですが、日本一周した人の話で感動して泣けるエピソードって聞いたことありますか?
「実は意外となかったりして…」
僕、大場祐輔は、東京ディズニーランドから721日かけて歩いて日本を一周した経験があります。著書はこちら「信じた道がいつか本当の道になるようにーガチで徒歩日本一周721日の旅」彩雲出版
日本一周を達成していれば、誰でも一つぐらいは、感動して泣けるエピソードを持っていそうな気がしますよね。
ぶっちゃけますが、僕は持っていません(笑)。
日本一周の経験をした人でも僕と同じ人は多いんじゃないでしょうか。
日本一周の旅に「感動して泣ける話」が意外とない理由を分析してみました。
「感動して泣ける話」の求められるハードルが高すぎる問題
「日本一周で感動的なエピソードってなんかある?」
と聞かれると、正直、困ってしまいます。
「うーん…」としばらく考え込んでいるところで「普通あるだろ」と突っ込まれたことがあります。
そもそも「普通」と言われても、一人旅の経験のない人の「普通」と一人旅を経験したことがある人の「普通」は違います。
つまり、求められるハードルが高すぎるんですね。
ドラマや映画のような感動できるエピソードはなかなかありません。よっぽど事実を演出しない限りは難しいのかなと思います。
日本一周した人のトーク力や文章力がなさすぎる問題
「涙が出る」「感動する」ことは個人の感情の問題なので、自分と同じような感情を経験していない限りは、なかなか相手には響かないのかなと思います。
そこで大事なのは、共感できる要素があるかどうか。
例えば、「日本一周」の中には、夢、目標、憧れ、やりたいこと、挑戦、周囲の反対、出会い、別れ、生き方、成長などのたくさんのキーワードが含まれているとします。
こうやって細分化していくと、日本一周の経験がなかったとしても、何かしらの共感できるキーワードが潜んでいることが分かります。
日本一周の話で人を感動させて泣かせるためには、共感できるようなトーク力や文章力も必要になります。
日本一周する人は、基本的に我が強い人や頑固な人が多いと思います。
自分の世界観を押し付けすぎてしまうと、相手に共感してもらうのはなかなか難しいです。
日本一周中に誰か死なない限りは「泣ける話」にはならない問題
「全米が泣いた」「感動して涙が止まらない」「涙腺崩壊」で、一般的に需要があるのは「人の死」が含まれていることです。
例えば「余命◯ヶ月」とかそういったワードが入っていると、誰にでも共感できますよね。
つまり、仮に日本一周のエピソードを感動して泣ける話にしようと思ったら、誰かに死んでもらわないと無理だと思います(笑)。
そもそもが世界的に見たら日本なんて小さな島国でしかないので、日本一周したぐらいで「全米が泣いた」となるわけないんですよね。
マジメすぎですか?(笑)
徒歩日本一周「全米が泣かない話」
最後に「全米が泣かない話」をします。
民宿に泊まった時の話です。
宿のオーナーに「玄関にリュックを置いてから部屋に入れ」と言われたことがあります。
「何ですか?」と聞いたら「畳を張り替えたばっかりなんだよ」と言われたので、玄関にリュックを置いて中身だけ出して部屋に入ったことがあります。
その後、風呂に入ろうとしたら「お前は一番最後に入れ」と言われました。
要するにこういうことです。
僕が先に風呂に入ると湯船が汚れる。
自分としてはリュックはそれほど汚れているとは思わなかったし、前日にキャンプはしているが、温泉に入っていたので、できる範囲で体は綺麗にしていたつもりでした。
正直言って、金を払っている立場で、そこまで言われる筋合いはないと感じました。
しかし客観的に見た場合。
「徒歩日本一周」は自分が決めた旅なので、人に迷惑に感じるようなことは避けたいと思っていました。
それ以降、民宿に泊まる時はリュックを置く場所に何かを敷いたり、風呂は一番最後に入っていました。
民宿の風呂は普通の家のサイズと変わらないので、一番最後に入ると湯船に垢が浮きまくっていて、とてもじゃないけど入る気にはなれず、シャワーだけで済ませることが多くなりました。
それからしばらく経って、久しぶりに民宿に泊まった日のこと。
宿のオーナーから一番風呂をすすめられました。他にも肉体労働の仕事で長期滞在しているお客さん達もいたので「後でいいです」と断りました。
肉体労働の仕事をしているお客さんからこう言われました。
「いいから先に入りなよ」
話をしてみると、今朝、肉体労働で働いている人達が民宿から車で現場に向かう途中で、歩いている僕の姿を偶然見かけたそうです。
仕事が終わった後、現場から民宿に戻る途中で、まだ歩き続けている僕を見つけて、「あいつ、今日一日でこんなところまで歩いてきたのか」と思ったそうです。
宿のオーナーも街への買い出しの際に、僕を見かけたそうで、宿で話題になっていたところに偶然、僕が予約なしで泊まりに来たということでした。
「今日、君が一番頑張ったんだから一番先に入るべきだよ」と言われました。
自分の頑張りをどこかで見てくれている人がちゃんといるんだなと思いました。
服を脱ぎ、シャワーで体を洗った後、久しぶりに湯船に浸かりました。
その時「湯船ってこんなに温かかったんだな」と思ったら急に涙が出ました。
普通に考えれば、一番風呂なんて早いもの勝ちでしかないと思います。本当は当たり前のことだけれど、それが許されない身分だと思っていただけに感じたものは大きかったです。
日本一周の一期一会の旅の中で、ドラマや映画のような感動的なエピソードが生まれるかといえば、実際は難しい。
そこまで高いハードルは超えられないと思います。
自分自身や他人に対して、どこか諦めの気持ちを持って過ごしていた時、人として当たり前の優しさに触れた瞬間、本当の感動があります。
それを言葉だけで伝えるのは非常に難しい。ものすごく地味な部分でもあるので。
旅をした本人がちゃんと分かっていれば、それでいいのかなと思っています。
例え、全米が泣かなくても。
『信じた道がいつか本当の道になるようにーガチで徒歩日本一周721日の旅ー』彩雲出版
大場祐輔 1981年埼玉県生まれ。
大学在学中にプロレスラーの大仁田厚が「徒歩日本一周」に挑戦したことに衝撃を受ける。 卒業後すぐに「徒歩日本一周」に挑戦。
2003年、東京ディズニーランドからスタートし、毎日平均40キロの距離を歩き続ける。
旅先でお金が無くなれば、住み込みでアルバイトをしながら食いつなぎ、スタートから721日目の2005年3月22日、東京ディズニーランドにゴール。 徒歩日本一周をやり遂げた。
同年11月より日本一周記の書籍化のために奔走。 出版社に原稿の持ち込みを開始。
それから5年後、出版が実現。 「信じた道がいつか本当の道になるように―ガチで徒歩日本一周721日の旅―(彩雲出版)」←クリックするとAmazonに飛びます。
「俺が断念したことを彼はやりとげた―大仁田厚さん推薦」